ステルスチェイサー「直感」
サンメカshimo
追い越し車線を譲ったにも係わらずクラウンは一向に抜きに来る気配がない。
愛車ZCTの右リアタイヤ部にフロントノーズの位置を合わせたまま、全く同じ速度で並走しているのだ。
予期せぬレーンチェンジの為、中央車線を走行していた前車との距離が見る見る縮まっていく。
ブレーキングによるフロントの沈み込みと共に、デジタルメーターの数字が急激に下がる。
その横を純正フルエアロを纏い、大口径のアルミホイールを鈍く輝かせながら悠々とクラウンが進んでいく。
ムダのない美しさは、車の外観だけのものではないだろう。
追い越し車線を遠ざかっていくテールランプを目で追い続けていた。
そして、数台先の中央車線を走る車と車の間に、何事もなかったかのように「奴」は静かに収まっていった。
心臓の鼓動が正常値を取り戻すまでに少しの時間が必要だった。
何か言いたげな家族に
「いゃ、早い奴が来たから譲っただけだよ」とだけ言って平静を装う。
しかし、数台先の車列に見え隠れするシルバーの車体を暫く眺めている私の心なかでは、ある想いが徐々に湧いてきた。
自分の直感は当たっていたのか?
「ステルスチェイサー」の正体を確認することは出来ていない。
「確かめたい!」
という衝動がZCTを再び追い越し車線に誘っていた。
中央車線を走るシルバークラウンは、すぐそこにいる。
スピードを上げ、真横に並んだところで助手席の息子に声をかけた。
「左の車には何人のっている?」
「前の席には二人乗っているけど、後ろは見えない」
「服装はどんな感じだ」
「服装って?」
「何色の服を着ているのか」
「青っぽい色の服だよ」
「二人ともか」
「そう、二人とも同じような青い服」
(青い服、か)
その情報だけで愛車ZCTのスピードメーターの数字を抑制するには充分だ。
「高速道路交通警察隊」
中には360馬力、260㎞/hを叩き出すモンスターも存在している「覆面パトカー」
我々に勝ち目はないだろう。
制限速度を確認しつつ追い越し車線を進み続け、やがてクラウンの姿は後方に遠く離れていった。
冷静さを取り戻して、家族との会話を楽しむことにした。勿論、周囲の状況には注意を払いながら。
学校の事、美味しいパン屋、花園豆腐、洗濯機や排水口の汚れの事など、普段会話が少なくなってきた家族にとって貴重な時間が流れていく。
再び奴に会うことなど想像もせずに。
by サンデーメカニックshimo
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